第16回 「野球王国復活」への胎動~四国地区高校野球総括~2010年08月05日

「葛藤に克ったチーム」が勝ち取った栄冠

ダイヤモンドを1周する宇和島東

2010年夏、四国の高校野球には爽やかな風が吹き抜けた。優勝を勝ち取ったのは春夏通じて初出場の英明(香川)を筆頭に、徳島県は15年ぶり6度目の鳴門、愛媛県は11年ぶり8度目の宇和島東。高校野球ファンにはおなじみの明徳義塾(高知)ですら6年ぶり12度目と4県共に近年にない代表校名が並んだ。

この栄冠には共通するキーワードがある。それは「葛藤」という一語だ。

例えば英明で言えば、普段から打撃のチームを標榜しながら県大会では秋春共に打線が振るわず緒戦敗退という「内容」に対する「葛藤」。鳴門宇和島東には先輩方が過去に成し遂げた選抜高校野球大会制覇に代表される、「古豪」という肩書きに対する「葛藤」。

さらに明徳義塾にも春の県大会準決勝で岡豊にコールド負け、その後も一向にチーム状態が上がらない「結果」に対する「葛藤」と、どのチームもそれぞれの葛藤を抱えて夏の闘いを迎えようとしていたのである。る。

そして彼らは葛藤に見事打ち克った。英明は筋力トレーニングとさらなる打撃強化により、どの打者も春とは見違えるような鋼の肉体を駆って香川県大会5試合で54得点、71安打の新記録を打ち立てる驚異の打撃力を手にし、鳴門は「名門復活」の新チーム目標を掲げ続け、敢えて過去にあがなう道を選択したことで、昨秋、今春と県決勝で屈していた小松島の壁をついに3度目で越えることに成功。宇和島東は土居監督だけでなく3年生も中心となったミーティングを重ねて編み出した自らの実力を出し切るメンタルコントロールで、サヨナラ勝ちを収めた決勝戦・済美戦をはじめ随所で発揮し、明徳義塾はディフェンス重視への方針転換と想像を絶する練習量で獲得した投手力及び鉄壁の守備力を、高知大会では1失点という明確な形で証明した。

これはすなわち四国の高校野球が新時代へと突入したことを意味している。今大会でも尽誠学園(香川)、今治西(愛媛)、鳴門工(徳島)の緒戦敗退に代表されるように、全国でも名を轟かせた名門校といえども対戦校の巡らす策略を上回る圧倒的な戦力を有していない現在、心技体に加え、その瞬間は回り道と思っても信念を貫くことなしには各県を勝ち抜くことは不可能。代表校だけでなくセンバツ大会での経験をプレーの随所に活かし徳島大会ベスト4まで進んだ川島、春以来基本プレーを見直し、高知大会ベスト8の高知工など新興勢力の躍進もその傾向に拍車をかけている。

「近道を探したら、その先は行き止りだ」。

岡田穣二右翼手(野村3年)


NHK、朝の連続テレビドラマ小説「ゲゲゲの女房」にて、水木しげるが漫画家を目指すアシスタントに贈った助言は、正に四国の高校野球へのアドバイスになって響いてくるもの。ついに今年、結果になって現れた「野球王国復活」への胎動となる戦国時代はまだ始まったばかりである。

自らを見つめ、磨き続けろ!

一方、選手個々にスポットを当たれば、最速150キロの剛球だけでなくカットボールの習得など技巧派への努力を怠らなかった秋山拓巳(愛媛県・西条→阪神)や、高速スライダーを際立たせる直球を磨き続けた平井諒(愛媛県・帝京第五→東京ヤクルト)に代表される個性派ぞろいだった昨年と比べ、今年は悪い意味での「平板化」が目立った。

敢えて個人名をあげることは避けるが、自らの長所と短所を理解しきれぬまま高校野球を終えた選手や、昨秋に得た高評価を一定した評価と思い込み、成長の歩みを止めた選手が今年、四国内で多く見られたことは筆者自らの評定方法への反省も含め、残念でならない。

その中でも常に謙虚な姿勢で練習に取り組み、ついには四国屈指の左打者にまで成長した岡田 譲二右翼手(愛媛県・野村)や、冬の妥協なき下半身トレーニングで球速を10キロ近く増して大舞台に乗り込む吉田 忠浩投手(徳島県・鳴門)、春以降のメンタル面での成長著しく最速143キロの魂の入った直球でチームを甲子園に導いた岩元 俊樹(高知県・明徳義塾)、173センチ66キロという小柄な体にもかかわらず体を大きく使い、球速も141キロまで伸ばしてきたスクリューの使い手である奴賀 康弘(香川県・高松北)となどは「努力賞」を与えたい選手たちである。

来年は香川大会では戦後2度目となるサイクル安打の偉業を引っさげて夏の夢舞台を踏む185センチ大型右翼手の中内 大登英明)、今夏は坊ちゃんスタジアムでの2連発を含む3本塁打で愛媛県高校野球界に衝撃を与えた細川 智裕一塁手(新田)、選抜大会で攻守に全国トップレベルの実力を持つことを示した亀井 雅人遊撃手(高知)など野手を中心に逸材が居並ぶ。

彼ら、いや四国の全ての高校球児には今一度長所、短所を見つめ直し、自らを磨く努力をぜひとも後悔することのないように続けることをお願いしたい。その努力が実ったときには人生を自ら決することのできる輝かしい未来が、もし実らなかったとしても人生の困難を乗り越えることができる根性が体内に宿るはずだ。

チャレンジャー精神で甲子園を闘え!

かくして四国勢が今年の総決算として迎える甲子園。もちろん全国の舞台では「四国代表」という肩書きで対戦相手が萎縮する時代はとうに終わっている。抽選会を終えて英明は初日第3試合で八戸工大一(青森)、宇和島東が2日目第3試合で前橋商(群馬)、明徳義塾は4日目第3試合で本庄一(埼玉)、鳴門が春夏連覇を狙う興南(沖縄)と4日目第4試合で対戦することになったが、筆者としては彼らがあくまでチャレンジャーとして闘ってくれることを強く望みたいし、みなさんも彼らのはつらつとしたプレーに暖かくも厳しい目を持って見守ってもらいたい。その一投一打と一汗が「野球王国復活」の基盤となることを信じて…。



(文=寺下 友徳


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吉田 忠浩(鳴門) 【選手名鑑】
宇和島東 【高校別データ】
英明 【高校別データ】
鳴門 【高校別データ】
明徳義塾 【高校別データ】

プロフィール

寺下友徳
寺下 友徳
  • 生年月日:1971年12月17日
  • 出身地:福井県生まれの東京都東村山市育ち
  • ■ 経歴
    國學院大學久我山高→亜細亜大。
    幼稚園、小学校では身長順で並ぶと常に一番後ろ。ただし、自他共に認める運動音痴から小学校入学時、早々に競技生活を断念。その後は大好きなスポーツに側面から関わることを志し、大学では応援指導部で4年間研鑽を積む。亜細亜大卒業後はファーストフード販売業に始まり、ビルメンテナンス営業からフリーターへと波乱万丈の人生を送っていたが、04年10月にサッカーを通じて知り合った編集者からのアドバイスをきっかけに晴れてフリーライター業に転進。07年2月からは埼玉県所沢市から愛媛県松山市へと居を移し、現在は四国地域を中心としたスポーツを追いかける日々を過ごす。
  • ■ 小学校2年時に福岡からやってきた西武ライオンズが野球と出会うきっかけ。小・中学校時代では暇さえあれば足を運んでいた西武球場で、高校では夏の西東京予選の応援で、そして大学では部活のフィールドだった神宮球場で様々な野球を体感。その経験が取材や原稿作成の際に「原体験」となって活きていることを今になってつくづく感じている。
  • ■ 執筆実績
    ネットでは、『高校野球ドットコム』、『スポーツナビ』、書籍では『野球小僧』シリーズ(白夜書房)、『ホームラン』(廣済堂あかつき出版)などで野球原稿を執筆中。また、サッカー原稿についても『週間サッカーダイジェスト』(日本スポーツ企画社)、 『サッカー批評』(双葉社)他、多数媒体での執筆実績あり。
  • ■ ブログ:「寺下友徳の「四国の国からこんにちは」

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