第7回 春季大会を振り返って~奈良編~2009年05月20日

優勝旗授与

 選抜に出場したばかりの天理、夏2連覇中の智弁学園が序盤で姿を消し、2年連続夏の準優勝校・奈良大附もベスト8までに敗退するなど、波乱含みとなった今大会。公立校の奮闘ぶりが目立った大会を総括してみた。


 優勝したのは一条。投打のバランスの良さが光ったチームだ。投手陣は右サイドの上仲と左腕の片山というスタイルの違う二人が好投を見せた。右打者からすれば、逃げていく球が身上の上仲と入ってくる球の片山(左打者なら逆)とを上手く使い、対戦校を戸惑わせた。決勝戦の郡山がそうであったように、二人の継投になると、なかなか崩すのが困難だ。

 打線は派手さがないものの、つないで得点していく。バントやエンドランなど、小技をきっちり決められる強さがあった。1番・勅使河原、決勝で5安打を放った山根、3番・尾原と好打者が出塁し、4番・阿久、5番・矢野の長打力に期待するというパターン。下位打線もつなぎに徹し、役割分担をしっかりこなしてきた。守備面は堅実ではないものの、ダブルエラーなどミスを繰り返さず粘り強い。天理智弁学園奈良大附の私学3強との対戦がなかった分、まだ推し量れない部分はあるが、昨秋4位からの、この優勝は価値がある。4強の中で、昨秋からもっとも成長したということである。

 準優勝した郡山は、下級生時から「エースで4番」を担ってきた大江が、ケガを抱え、大会途中に離脱。決勝戦こそ復帰できたが、大会を通してチームに貢献しているとは言い難かった。ただ、逆にいうと、その大江がいない中で決勝まで来たことは大きい。天理奈良大附畝傍五條のいる激戦ブロックを、勝ち上がった実力は認めたい。何よりの貢献者は2年生右腕・上西。3回戦の奈良大附戦では、大江が不調から打ち込まれ、5点ビハインドから登板したが、流れを呼び込み逆転勝利に導いた。その後、3試合でも先発するなど活躍。スライダーを軸に、左右へのコントロールに優れ、試合を作れるのが彼の良さだ。大江に続く存在として、頭角を現した。
 打線は1番・廣長がチームを引っ張った。積極的な姿勢もさることながら、3塁到達タイム11秒前半を記録する俊足はチームを勢いづかせた。凡打でも全力疾走を止めない姿勢も素晴らしかった。俊足好打の3番・大杉、長打力のある桑原・2年生の藤井、大技・小技と、得点能力が高かった。

 準決勝で敗退した大和広陵は3回戦で智弁学園を撃破。そのポテンシャルでは県内でもトップクラスだ。特筆すべきは打線の振りの鋭さで、クリーアップと智弁学園戦で2本塁打を放った佐藤を加えた攻撃陣は破壊力抜群。準々決勝の関西中央戦でもコールド勝ちを見せるなど、その打棒には光るものがあった。しかし、準決勝がそうだったように、対戦した投手により脆さが出る。打てなくても得点を奪えるような攻撃力を高めたいところだ。



奈良朱雀ナイン

 郡山に準決勝でコールド負けしたが、法隆寺国際もいいチームだ。攻守交代に全力で走るなどキビキビとした高校生らしい姿勢が印象に残った。エースの渡瀬はコーナーをうまく突いて打たせて取る。左打者にはツーシーム、右打者にはスライダーと、上手く投げ分けていた。彼を支えるディフェンスも堅実で、遊撃手の氏原、中堅手の鍵谷らセンターラインを中心に鍛えられている。打線は、2回戦の王寺工戦で特大の本塁打を放った木村が印象に残った選手だ。荒削りだが、まだ2年生というから楽しみが増すばかりだ。

 ベスト8に残ったチームでは、橿原学院も好チーム。右サイドのエース・奥井は、外角の出し入れが上手い技巧派。法隆寺国際との準々決勝は1点を争う好ゲーム。まだ発展途上のチームだが、若い指揮官のもと、よく指導が行き届いている。

関西中央は選手の能力では天理智弁に肩を並べる。レギュラーと控えの能力差がほとんどなく、投打にハイレベルな能力を持っている。だが、調子の波が激しく、試合の中でも一度崩れると、修正がきかない。広陵戦では一気に崩れてコールド負けしてしまった。大崩れしないチーム作りが必要とされる。

高取国際は、高校生らしい清々しいチームだった。3回戦で昨秋・準優勝校の桜井を倒す金星を挙げた。全力でグラウンドを駆け巡る姿が印象的だった。

ベスト8に残らなかったが、印象に残ったチームもいくつかあった。
二階堂は二枚の投手とスイングの鋭さが目立った。また、盗塁などの作戦も積極果敢だった。5番で投手も務める浦は楽しみな選手だ。奈良は3回戦で敗退したが、ベストチームの一つ。見邨、大倉の投手陣と、走攻守・三拍子そろった遊撃手・藤原を中心に、攻守にバランスが取れている。藤原は県内で3本の指に入る遊撃手だろう。天理を破った奈良大附は、左腕エース・松田の成長ぶりに驚いた。縦に落ちるスライダーは、そう打ち崩せる球ではない。全国に出しても恥ずかしくない投手だろう。視察に訪れていたプロ野球のスカウトも注目した投手でもある。打線に昨年ほどの迫力はないが、つなぐ姿勢は徹底されている。もともと、守備が良いチームなので、松田を中心に守り、リズムを作ってうまく攻撃につなげていた。

センバツ出場校の天理は、その松田にハマった。ただ、個々の能力はやはり県内1だ。選抜メンバーから岩崎、中村の野手陣、岡田らが投手陣が台頭するなど、今大会はチーム力の底上げが狙いだったように見えた。とはいえ、この敗戦は大きな薬になっただろう。4安打に抑えられ、三塁すら踏むことができなかったのだから、屈辱の大会だっただろう。
五條は最速140キロの右腕・澤口が注目を浴びた。初戦の御所実戦では9球団のスカウトが視察に訪れたほどだ。澤口だけでなく、2年生左腕・日下、4番・西尾など、個性が目立つチームだった。
智弁学園は1年からレギュラーの稲森、昨夏甲子園に出場した辻らが精彩を欠いたが、その分、1年生を起用するなど、天理と同じくチーム力の底上げを狙いながらの戦いだった。大和広陵に3回戦で敗退したことで、さらなる成長を予感させる。

このほかでは、畝傍桜井高田高田商香芝王寺工なども、今大会の注目チームとして挙げておきたい。夏には必ず、怖い存在となるはずだ。また今大会から、奈良朱雀が統合校として再出発。昨秋までは前身の奈良工、奈良商と分かれていた両チームが、ひとつになり、再出発を図った。

あくまで本番は夏であるが、公式戦でしか得られないものがあるのもまた事実だ。今大会で得た収穫と見えた課題を、日ごろの練習に持ち帰り、もうひとつ成長した姿を本番に見せてもらいたいものだ。奈良は、天理智弁学園郡山のいわゆる奈良県3強が甲子園に、約40年もで続けている。いわば、3強以外は夏を勝ち抜けていないわけだが、ことしはどうなるか。この沈黙を破るチームは出てくるのだろうか。

(文=氏原英明)


春季大会結果
春季大会【奈良】優勝一条
準優勝郡山
ベスト4大和広陵 、法隆寺国際  
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プロフィール

氏原英明
氏原 英明
  • 生年月日:1977年
  • 出身地:ブラジルサンパウロで生まれる
  • ■ 高校時代から記者志望で、新聞記者になるのが将来の夢だった。
  • ■ アトランタ五輪後に、スポーツライターに方向転換。
  • ■ 大学を卒業後、地元新聞社に所属。
  • ■ その後スポーツ記者として、インターハイなど全国大会の取材も経験させてもらい、数々の署名記事を書く。
  • ■ 03年に退社。フリー活動を開始。

    『週間ベースボール』、『ベースボールクリニック』(ベースボールマガジン社)、『アマチュア野球』(日刊スポーツ出版社)『ホームラン』(廣済堂出版)、『Number』(文藝春秋)、『Sportiva』(集英社)、『高校野球ドットコム』『ベースボールファン』などに寄稿。フリーライターとしての地位を固める。

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